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エッセイ

迫力ないのになぜか緊迫度満点の子ども空手大会

去る9月19日、シオンが通う空手教室の大会が開かれ、シオンは生まれて初めて空手の試合に出場することになった。

格闘技大好き人間の私は、空手の試合と聞くとすぐに防具なし、寸止めなしの壮絶な打撃戦を想像してしまう。だが、今日の試合は、ヘッドギアやチェストガードなどの防具を着用し、子どもたちの安全をしっかりと確保しながら行われることになっている。したがって、体育館の脇に救急車が予め控えている、などということは当然なく、選手の親兄弟、おじいちゃん、おばあちゃんが陣取る観客席には、まるで学芸会のような和気藹々とした雰囲気が漂っていた。

もっとも、実際に試合をする子どもたちは相当な怖さを感じ、緊張感も並大抵のものではなかったはずだ。普段の稽古で組手を行うときは、相手に当たらないよう、スピードも力も加減しながら蹴りや突きを放ち合っている。ところが今日は「普段と違って手加減なしで思いっきりやりなさい」と先生から言われ、これまで着けたことのない(シオンなどは見たこともない)防具をスタッフの手を借りて装着し、大勢の観客の視線を一身に浴びながら、目の前の相手と真剣勝負をしなければならないのだから。

試合時間は1分30秒。有効な打撃には技ありが与えられ、技あり二つで一本勝ちとなる。また、子どもの大会らしく、試合中に泣いてしまうとその瞬間に相手の勝ちとなる。

参加者は40名ほど。大会は休憩をはさんで前半と後半に分かれており、選手は前後半それぞれ一試合ずつ、計二試合を戦うことになっている。

予め先生が同レベルの選手同士の対戦になるよう組み合わせを決めており、その意味ではどの試合も「実力伯仲の好カード」と言うことができよう。

開会式が終わり、いよいよ試合開始。

よその子の試合は見ていて実に楽しい。特に低学年の経験の浅い子ども同士の対戦は、本人たちは必死なのだろうが、まるでお遊技を見ているようでほほえましい。また、事前に打ち合わせをしたわけでもないのに、交互に技を出し合う試合が多い。普段の稽古では片方が攻撃、もう片方が防御という練習を交互に繰り返しているので、その影響なのだろう。

試合は九割方引き分けで終わる。先に述べたように対戦相手のレベルがほぼ同じであること、また、これは普段の稽古の成果として挙げていいと思うのだが、どの子も相手の攻撃に対する防御がしっかりとできているため、なかなか有効打が決まらないことが原因だ。格闘技好きとしては、強烈なKOシーンが見てみたい気もするのだが、まあ仕方なかろう。

そうこうするうちに、シオンの順番が近づいてきた。下の写真は一つ前の試合中に出番を待つシオンを撮影したものだ。そのときは気づかなかったが、後で拡大してみると、ヘッドギアの奥からしっかりとこちらを見つめている。きっと怖かったのだろう。救いを求めるような目だ。

160919_134545 – バージョン 2

前の試合も引き分けに終わり、ついにシオンが出場する第5試合となった。場外で一礼した後、中央まで進み出る姿がいかにも心細げだ。試合開始前だというのになんだか痛々しい。

こうなると、さっきまで和気藹々だの、ほほえましいだのと言っていたこちらの心境も一変する。KO劇など無論見たくもない(KOされるとしたら、どう見てもシオンの方だ)。

胸の辺りにカメラを固定し、祈るような気持ちでシオンを見つめる。

始めの合図と共にいきなり攻め込まれるシオン。それでも負けじと必死に突きや蹴りを繰り出す。

相当におっかないのだろう、ものすごく遠い位置から攻撃するものだから、相手になかなか届かない。

頑張れ、頑張れと心の中で叫んでいるうちに、気づくとあっという間に試合終了。かなり押され気味だったが、規定上は引き分けとあいなった。

下の動画はそのときのもの。結果が分かった後で見ると、はるか遠距離からの蹴りや突き(形だけは波動拳のようだ)に思わず笑ってしまうが、試合中は上で述べたとおり、少なくとも私と妻と対戦相手のご家族にとっては、手に汗握り固唾を呑んで見守った緊迫の一戦だったのである。

前後半の合間の休憩時間、人生初の試合を終えたせいかシオンはすこぶるご機嫌だった。おにぎりをほおばりつつ、さきほどのビデオを見ながら「パパ、オレどうだった?」と明らかに褒め言葉を期待した表情で聞いてきた。

「すごくよかったよ。相手もどんどん攻撃してくるのに、シオンはすごく勇気があるなぁって思ったよ」

「オレ、ぜんぜん怖くなかったよ」

「(思わずホント?といいそうになるのをこらえて)そうか、そうか。怖くないんだったら、次の試合ではもっと相手に近づいてから突いたり、蹴ったりするといいんじゃない。それから、かわりばんこに攻撃するんじゃなくて、連続で攻めていったらもっとチャンスがでると思うよ」

「わかった、じゃあ、次はそうやってみる」

こうした会話の後に戦った人生二度目の試合の映像がこちら。

試合後再会したとき、シオンの口から真っ先に出た言葉は「パパにアドバイスもらったから、相手に近づいてから攻撃したんだけど、どうだった?」というものだった。その言葉通り、最初の試合に比べると別人のように積極果敢な攻撃で、シオンの方が押し気味の展開となっている。

結果はまたしても引き分けだったが、わずか一時間の間に目に見えて成長した我が子の、目をきらきらと輝かせ、活き活きと語る表情がとても逞しく、かつ愛らしかった。

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