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エッセイ

地震の朝、自信喪失の朝

昨日、2月5日午前7時41分頃、神奈川県東部を震源とする地震が発生した。

私は仕事で前日から墨田区のホテルに宿泊しており、揺れを感じたのは、スカイツリーが目の前に見える20階の部屋でパソコンに向かっているときだった。

地震は大の苦手で、ちょっとした揺れでも過剰に反応してしまう(簡単に言うとおろおろしてしまう)のだが、おろおろしながらもテレビのスイッチを入れ、いち早く情報収集に努めるというのが地震時の私のお決まりの行動となっている。

昨日も揺れを感じた瞬間に椅子から立ち上がり、意味もなく1、2周その場で回転した後(おろおろした時の典型的な行動パターン)、テレビのスイッチを入れようとリモコンを探した。

が、リモコンが見当たらない。

「え、え、え?」と情けない声を上げながら、そこら中を探し回るが見つからない。

この部屋のどこかにあるのは間違いない。昨夜ベッドに寝転がりながら『ダウンタウンDX』を見た記憶ははっきりあるし、途中でリモコンで音量を調整した記憶もある。

だから、絶対にリモコンは存在しているはずである。

であるにもかかわらず、どこにもない。

どこだ、どこだ、どこだ!!!

揺れの方はとっくに治まっていたのだが、私の焦りは却って募っていった。

さして広い部屋でもないので、浴室も含めてすみずみまで見て回ったが、結局見つけることはできなかった。

そうこうするうちに、自宅の妻から「無事だよ。念のため」というメッセージがスマホに入った。いつもなら、テレビで状況を把握しつつ、必ず私の方から確認の連絡を入れるのだが、リモコンが行方不明になったせいで、そのパターンも崩されてしまった。

ともあれ、「無事」の知らせを聞いて私の心もようやく落ち着きを取り戻し始めた。

相変わらずテレビは映せないので、中腰の姿勢でパソコンのニュースサイトを立ち上げてみた。ちゃんと地震に関する速報が出ている。

「なんだ、テレビにこだわることもなかったな」

そう思いながら、作業を続けるため再び椅子に腰を降ろす。キーボードに指をかけ、キーを打とうとしたとき、視界の隅——テーブルの端——に炭酸水のペットボトルがあることに気づいた。昨夜コンビニで買ったものだ。

今朝はまだ飲んだ覚えがないし、実際ペットボトルの蓋も開けられていない。触ってみると冷えていないので、しばらく放置されていたに違いない。

炭酸水はキンキンに冷えたのが好きなので、いつもは飲む直前まで冷蔵庫に入れておくはずなのだが、昨夜は買ってきてそのままデスクの上に置き忘れてしまったのだろうか。

放置した理由ははっきりしないが、とにかく後で飲むときのために冷やしておこう。

そう思って、冷蔵庫を開けたところ、何と、あ、あ、あった!

リ、リ、リモコンが……キンキンに冷やされて……しかも、電動ひげ剃りまで……。

そう言えば、今朝5時に起床し、ひげを剃った後、仕事を始めるためにデスクの上を片付けた記憶はある。そのとき、本来であれば、テレビ脇の番組表が立ててあるスタンドに戻すべきリモコンと、キャリーバッグに収めるべきひげ剃りを冷蔵庫にしまい、代わりに炭酸水のボトルを無意識のうちに取り出していたのだろう。

探し求めていたリモコンは見つかったものの、気持ちの方は少しもすっきりしない。酔っ払っていたわけでも(先日の日記で宣言したとおり断酒中)、寝ぼけていたわけでもないのに、こんな行動をとってしまい、しかもその記憶が定かでないことに、いつの間にか忍び寄ってきた「老い」の存在を自覚させられ、そこはかとない悲しみを味わう朝となった。

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