去る4月6日、一人息子のシオンが晴れて小学生となった。
今年創立140周年を迎える区立小学校で、自宅からは大人の足で約5分の距離。
学童も学校から1ブロックしか離れておらず、地理的には大変に恵まれた環境にある。
入学式からしばらくの間は、毎日学童で食べるお弁当を持参して登校していたのだが、今週の火曜日、4月14日からついに念願の給食がスタートした。
記念すべき初日のメニューは次のとおりだ。
●カレーライス
●牛乳
●なんでも千切りサラダ
●すりおろしりんごゼリー
「なんでも千切りサラダ」の「なんでも」がどういう意味なのか、やや気になるものの、1年生の給食初日(2年生以上は先週からすでに給食)に子供が大好きなカレーライスをもってくるあたり、学校側の人心掌握術もなかなかのものと言えよう。
ところで、みなさんは小学校で最初に出された給食の献立を覚えておいでだろうか?
残念ながら私は覚えていない。
なにしろ私が小学校に上がったのは昭和43年(1968年)、今から47年も前の話だ。記録をとっていれば別だが、そうでなければ忘れてしまって当然だろう。
だが、同じ昭和43年4月の給食の中で一つだけ、未だに記憶に焼き付いているメニューがある。
しかも、記憶に焼き付いているのはその名称だけではない。
狭い自宅の、これまた狭い台所の壁に4月の献立表が貼られていたこと、献立表の中にその名前を見つけた時に「いったい何なんだ、これは!」と思わず身震いするほど興奮したことなど、そのときの場面や気持ち、感覚まで、まるできのうのことのようにはっきりと覚えているのである。
ではそのメニューとは何か。
それは
「メルルーサのあまずあんかけ」
である。
後半が分かりにくいかもしれないので、漢字を用いて再度載せておくことにしよう。
「メルルーサの甘酢あんかけ」
皆さんは小学校1年生の頃、メルルーサという魚をご存知だっただろうか?
私はまったく知らなかった。
では、皆さんは小学校1年生の頃、「あまずあんかけ」と言われて、「ああ、あのことね」とすぐに理解できただろうか?
私にはまったく理解できなかった。
まずもって「あまず」というのが何なのか分からなかった。仮に「甘酢」と漢字で書かれていたとしたら、読むことすら出来なかっただろう。
「あんかけ」の方は何とか想像力を働かせることが出来たが、後日給食に出されたその料理を見て、自分の想像が間違っていたと気づかされることになる。
新1年生の私は「あん」を「あんこ」のことだと思っていたのだ。
そして、どのようなものかはわからないが、この世には「あまずあん」と呼ばれるあんこの一種が存在しているのだ、と自分に言い聞かせることによって、何とかこの未知なる料理を受け入れようとしていた。
それにしても、メルルーサである……。
こいつを何とかしない限り、謎のメニューの受け入れ作業は完了しない。
「メルルーサって何だ? メルルーサ、メルルーサ、メルルーサ……」
小学校1年生の男の子がこんな風に呟き始めたら、行き着く先はほぼ決まっている。
「そうか、怪獣だ。怪獣のメルルーサだ!(いるのか!?)」
昭和43年の4月といえば、かの『ウルトラセブン』が初回放映されている頃だ。
ウルトラシリーズ第1作である『ウルトラQ』から『ウルトラマン』『キャプテンウルトラ』『ウルトラセブン』と見続けてきた少年にとって、「メルルーサ」という名前がいかに怪獣チックに響いたかは容易に想像していただけるだろう。
かくして「メルルーサのあまずあんかけ」は「メルルーサという、きっとこれから『ウルトラセブン』に出てくるはずの怪獣の切り身に、どんなものかはわからないけど『あまずあん』というあんこの一種をかけた食べ物」という具合に翻訳され、実態がよく分からないという点においては、ほとんど状況に進展が見られていないにも関わらず、まあ、一言で言ってしまえば「何だかとってもすごそうな食べ物」ということになり、ようやく幼い私の腹にも落ちたのであった(落ちるな!)。
息子は将来、給食にまつわるどんな思い出をもった大人になるのだろうか。
楽しい思い出、ワクワクする思い出をたくさん作っていってほしい。

