何気なく新聞を開き、プロ野球がセ・パ両リーグともクライマックスシリーズに突入していることを知った。今年もまた1試合も見ることなく、プロ野球シーズンが終わろうとしている。野球を見なくなって、いったいどれぐらいたつのだろう。
子どもの頃は大のプロ野球ファンだった。ひいきのチームはセ・リーグが阪神タイガース、パ・リーグが地元の西鉄ライオンズ。
だが、時代は巨人(ジャイアンツ)V9のまっただ中で、V9が達成されたのが丁度小学校6年生のとき。
つまり、プロ野球というものの存在を知り、少しずつ関心を持ち始めた幼稚園の頃から小学校を卒業するまでの間、巨人以外のチームが日本一になることはなかったということだ。
自分は心理学者ではないのでいい加減なことしかいえないが、巨人の9連覇という偉業(アンチ巨人の私でも偉業であることは素直に認める)は、私と同世代の人々、特に子どもの頃プロ野球に関心を寄せていた人々の人生観や世界観に、少なからず影響を及ぼしているのではないだろうか。
巨人ファンや巨人寄りのマスコミが用いる表現に「常勝巨人軍」というものがある。巨人が優勝から遠ざかっている時期に初めてこの言葉を聞いた人の中には、「寝言みたいなこと言いやがって」とか、「たまにしか優勝しないのによく言うよ」と思った人もいるだろう。
だが、私が小学生の頃、テレビ中継を通じて毎日のように目撃していた巨人軍は、正真正銘の常勝軍団だった。
何しろ9年連続日本一なのだ。繰り返しになるが、小学校を卒業した頃の私にとっては、嘘でも誇張でもなく「物心ついて以来、ずっと巨人が日本一」だったのであり、「どこでもいいから、今年こそは巨人をやっつけてくれ」という少年の願いは、ただの一度も叶ったことがなかったのである。
そういうわけで、私や私の同世代の人々の中には、巨人のV9という出来事を通じて、単に巨人が常勝軍団であることを認めるだけでなく、世の中とは結局そういうもので、強い者、優れた者は常に勝ち、そうでない者はいい線までいったとしても最終的には負ける、という観念を無意識のうちにすり込まれてしまった人が、少なからずいるのではないだろうか。
まあ、人のことはわからない。が、少なくとも自分の場合はそうだったように思う。
そして、矛盾することを言うようだが、そういう観念をいったんは受け入れながらも、そんなはずはない、どこかに必ず常勝軍団を倒す相手がいるはずだ、いてほしい、でないと、今風にいえばとても勝ち組とは思えない家庭に生まれた自分の人生、寂しすぎるという反発心が本能的にわき上がってきたのに違いない。
私が長島や王を筆頭とする当時の巨人軍の選手たちに最大級の憧れを抱きながら、チームとしての読売ジャイアンツに対しては激しい敵愾心を燃やすアンチ巨人になった理由は、どうやらこの辺にありそうだ。