カテゴリー
エッセイ

運動会で知ったわが子の成長

今日は息子シオンの運動会の日だ。シオンが通う子供園は園庭が狭いので、運動会は近くの区立小学校の校庭を借りての実施となった。

我が家は夫婦共働きのため、シオンは1歳のときから保育園に通い始めた。早いものでシオンも来春から小学生。今年は彼にとって5回目の、そして保育園・子供園生活を通じて最後の運動会である。

開始予定時刻は午前9時。園児の集合時刻は8時40分。

どちらも遅れてはならない大切な時刻だが、親にとってそれ以上に重要なのが8時50分という時刻である。

園児の集合から10分後、開始時刻の10分前に当たる8時50分に何があるのか? 事前に配布されたプログラムにはこうある。

「8時50分――場所取り開始」

校舎のすぐ前にテント張りの本部席が設えられており、その本部席から競技スペースを挟んだ向かい側が父兄の見学スペースになっている。トラックのすぐ外側には園が用意してくれたブルーシートが敷いてあるのだが、父兄のねらいは当然この特等席に陣取ることだ。

だが、8時50分までは何人もこのシートに足を踏み入れることは許されない。「8時50分――場所取り開始」とはそういう意味である。

今回われわれ夫婦は、シオンを先生方に預けるのにやや手間取ってしまい、残念ながら特等席争いには敗れてしまった。

が、それでもブルーシートのすぐ後方に持参したレジャーシートを敷き、前から3列目という好位置を確保することができた。あと10秒ほど遅かったら、さらに後方で立ち見(数の上では立ち見客が一番多い)となるところだったので、座れただけでもラッキーである。

「プログラム0番」ともいうべき父兄の場所取り競争が、ものの1分ほどで決着すると、いよいよ運動会の開幕だ。

シオンは踊りも含めて4種目に出場したが、中でも私がいちばん楽しみにしていたのがリレーである。リレーは2チームの対抗戦で、1チームの走者は14人。シオンは10番手で、レース展開によっては彼の走りがチームの勝敗を大きく左右する可能性もある。

シオンはどちらかというと運動は苦手な方だ。一人っ子で甘やかされてきたせいか、競争心や闘争本能も弱い。

「バトンをもらったときは1番で、渡すときは2番」なんてことになって、友達に責められたりしなければいいが……。

楽しみにしていたはずのリレーなのに、スタート直前になってこんな不安が頭をもたげてきた。たとえ不安が的中したとしても、そういう辛い体験を乗り越えてたくましく成長してくれればいいのだ――と頭ではわかっているのだが、どうも親としてまだまだ未熟なようで、ついつい過保護になってしまう。

そんなことを考えているうちに遠くでピストルが鳴り、レース開始。

子供たちはみな精一杯の走りを見せ、他の園児や親たちが、大声で友達やわが子の名前を叫び続ける。速い子もいれば遅い子もいる。が、誰一人として手を抜かない(この場合、足を抜かないというべきか)。

レースは序盤からシオンの赤チームが優勢で、9番目の走者にバトンが渡ったころには差が約半周に広がっていた。両チームの9番手ランナーの実力は拮抗しており、差はほとんど縮まらないままシオンにバトンが渡る。

本部席前でバトンを受け取ったシオンが、コーナーを曲がってわれわれの応援席の方に近づいてくる。

「がんばれ! シオン、がんばれ!」

私も妻も無我夢中、半狂乱だ。

やがて、先頭を走るシオンの姿がわれわれのすぐ前に現れた。その姿、その表情を見たとき、私は思わずはっと息を呑んでしまった。

今目の前を走っているのは、本当に甘えん坊のわが子なのか……。

シオンはこれまで見たこともないような真剣な表情で、ぐっと前方をにらみつけながら、全力で走っていた。先頭にも関わらず、前を走るランナーを追いかけているかのようだ。

「抜かれたらどうしよう」とか「あと、どれくらいだろう」という顔つきではない。

「オレはやるべきことをやるんだ」という顔だ。

シオンは最後の最後まで全力で走りぬき、やや差を詰められたものの、次のランナーにバトンタッチ。最終結果は僅差でわが赤組の勝ちとなった。

これまでの運動会でも毎回シオンの成長を感じ取ることができたが、今回は格別だった。

毎日接していながら、いや、毎日接しているからこそ気づかないわが子の成長。親たちが特等席を奪い合うのは、単にビデオ撮影のためだけでなく、こんなわが子の成長ぶりをしっかりと確認するためなのかもしれない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください