数日前、小田原市の生活保護を担当する市職員たちが「保護なめんな(HOGO NAMENNA)」などの文字がプリントされたジャンパーを着用していたという問題が報じられていた。
2007年、生活保護を打ち切られたことに腹を立てた男が、同市職員を杖やカッターナイフで負傷させる事件があった。
今回問題視されたジャンパーは、その事件の後、生活保護を担当する職員たちが「不正受給許すまじ!」の思いを込めて作った物だという。
ジャンパーの背中には、その思いを表現した英文があしらわれており、それを日本語に訳すと次のようになるそうだ(テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』で紹介されていた訳文)。
我々は正義だ 正義であらねばならない
小田原のために働かねばならない
不正を見つけたら 我々はそれを追いかけ
罰を与え 悪を正していく
もし不正行為によって我々を出し抜き
私腹を肥やそうとするならば
あえて言おう『お前たちはカスだ』引用元:テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』より
モーニングショーの司会者、羽鳥さんは「不正受給を防ぎたいという思いは分かるが、思いの表現方法としては完全に間違っている」といった趣旨の発言をされていたが、世の中の大方の意見も同じではないだろうか。
不正受給が許されないことは誰もが認めるところだろう。
また、小田原市の担当職員たちが「たとえ杖やカッターナイフで傷つけられようとも、私たちはひるむことなく不正受給の防止に努めて参ります」などと語ったとすれば、多くの人々が賞賛の声を上げたのではないだろうか。
だが、言葉づかいが過激であったこと、「不正受給者よ、我々をなめるなよ」のつもりが「生活保護受給者よ、我々をなめるなよ」と読まれてしまったこと、そんな言葉をジャンパーにプリントし、おまけに着用までしていたことなどが重なって、福祉健康部長ら7人が厳重注意を受けるという結果になってしまった。
どんな人でもそうだが、とりわけ公職に就いている人は、ものの言い方に気をつけなければならない、ということなのだろう。
『モーニングショー』を見ながら、そんなことを考えていたのだが、ふと、「この言い方、誰かに似てるな? 誰だっけ?」という疑問が浮かんできた。
言葉づかいの荒々しさから、プロレスラーの顔を何人か思い浮かべたが、どうもピンと来ない。
「でも、最近よく聞くんだよな……。あっ!」
答はプロレスラーではなかった。
アメリカの次期大統領、ドナルド・トランプ氏だ。
選挙期間中、メキシコ人やイスラム教徒に対するあからさまな差別的発言で(少なくともアメリカ国民の半分から)ひんしゅくと怒りを買ったトランプ氏。
しかし、彼の場合は、彼の思いに賛同する残り半分の人々の心を捉え、大統領選で勝利を勝ちとってしまった。
言っていること自体はまともな小田原市職員らは処罰され、言っていることがまともなのかどうか大いに疑問のトランプ氏はアメリカ大統領に就任する。
いったいどうなっているんだろう。
日本はまだまともだということだろうか。
そうなると、アメリカはまともじゃないということか?
それはそれで大いに困る。
まともなのかそうでないのか、未だに謎のトランプ氏の大統領就任式はもう間もなく始まる。連邦議会議事堂での宣誓まで、あと2時間を切った。
アメリカのみならず、世界中が注目する就任演説で、はたして何を語るのか……。
どこかの国を名指しして『お前たちはカスだ』だけはないことを祈りたい。