一富士二鷹三茄子(いちふじ・にたか・さんなすび)ってそもそも何?
お正月になると一富士二鷹三茄子という言葉をよく耳にするようになります。私がこの言葉を初めて聞いたのも、小学校低学年のお正月のことでした。
そのときは、「富士山も鷹も本物は見たことがないけど、茄子だけはよく食べるなぁ」と思っただけで、それが縁起がいいものだと言われても、ちっともピンと来ませんでした。
以来約半世紀、ずっとピンと来ないままというのもいささか情けないので、ちょっと調べてみました。
まず、「縁起がいい」についてですが、より正確に言うと「夢(特に初夢)に見ると縁起がいい」ということ。お正月によく聞くのは、初夢と絡んでいるからでした。
で、一、二、三というのはごく普通に順序を表す言葉。富士山が一つ、鷹が二羽、茄子が三本という意味ではなく、一つ目、二つ目、三つ目ということです。
つまり、一富士二鷹三茄子というのは、夢に見ると縁起がいいとされている物を三つ並べたもの、ということです。
四以下もあった
一、二、三ときたら四、五、六もありそうですが、案の定ありました。
地域や文献によって相違があるようですが、調べた中で最も多く採用されていたのが、四扇五煙草六座頭(しせん・ごたばこ・ろくざとう)というもの。
煙草や座頭(剃髪の盲人)が入っている辺りは、現代にそぐわない印象もありますが、江戸時代からの言い伝えなのでやむを得ないところでしょう。
一体全体なぜ縁起がいいとされているのか
一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭
改めて並べてみましたが、この六つがなぜ縁起がいいとされているのか、さっぱりわかりませんね。
ところが、それぞれが縁起がいいとされる理由はちゃんとあるようです。こちらも諸説あるようですが、代表的なものを紹介しておきましょう。
一富士二鷹三茄子に関して
●徳川家康が領有する駿河の国の名物を並べたという説
●同じく駿河の国において高いものを並べたという説(この場合の鷹は愛鷹山の通称から、茄子は初茄子の値段が高いことから)
●富士は「不死⇒不老長寿」、鷹は「高・貴⇒出世栄達」、茄子は「実がよくなる⇒子孫繁栄」を意味するという説
四扇五煙草六座頭に関して
●扇は「末広がり」、煙草は「天に昇る⇒運気上昇」、座頭は「毛がない=怪我ない⇒家内安全」を意味するという説
博多っ子にピンと来なかったのは関東起源のせい
四以下は今回調べて初めて知ったことでした。
また、小学生だった私が、一富士二鷹三茄子と言われてもちっともピンと来なかったのは、いずれも駿河の国に関連したものだったからでしょう。私は福岡県福岡市博多区出身の博多っ子ですので、富士山も鷹も知ってはいるけどテレビや本で見たことがあるだけ。まったくリアリティは感じられませんでしたから。
この順番になったのは語呂のよさが決め手か?
最後に私なりの仮説を一つ。
富士、鷹、茄子、扇、煙草、座頭がこの順番になった理由の一つは、語呂が良かったからではないでしょうか。
イチフジニタカ サンナスビ
シセンゴタバコ ロクザトウ
カナで書くと七五調になっていることがよくわかります。
フジ、タカ、ナスビ、セン、タバコ、ザトウということばを当てはめて、七五調にしようとすると
イチ●●ニ●● サン▲▲▲
シ●●ゴ▲▲▲(あるいはシ▲▲▲ゴ●●)ロク▲▲▲
という具体に●●には二音の言葉、▲▲▲には三音の言葉を入れると収まりがいいわけです。
で、適当にと言うわけではないでしょうが、収まりよく当てはめた結果が「一富士二鷹三茄子四扇五煙草六座頭」なのでは。
可能性としては「一鷹二富士三煙草」なんてのもあり得たでしょうが、「一煙草二座頭三富士」なんてのは語調が悪くて不採用(誰が採用したのか知りませんが)となったはずです。
なお、四扇の読み方としてシオウギやヨンセンを採用している資料もありましたので、その場合は上の私の仮説も根底から崩れ去ってしまいます。ハハハ。
以上、一富士二鷹三茄子についてでしたが、考えてみるといまだかつて、どれ一つとして夢で見た記憶がありません。
今後に期待したいところです。