ステッカーの文言からホテルの姿勢が透けて見える話

以前の投稿でホテルのトイレの貼り紙(掲示)をネタにしたが、今回はホテルのバスタブの掲示について。

下の2枚の写真は、A、B、二つのホテルのバスタブ内に貼られたステッカー。おわかりと思うが、お湯をためる目安を波線で示したものだ。



A


 

B



イメージが湧きにくい方のために、さらに写真を2枚載せておく。CはAのバスタブを少しだけ離れた位置から撮影したもの。DはBのバスタブに実際にお湯を張った状態だ。



C


 

D

写真Dでわかるとおり張られたお湯の表面は水平になるので、波線のデザインで「この高さまで」と言われても、波のどこに合わせればいいのか迷ってしまうじゃないか——というのは、まあ、どうでもいい突っ込み。

最初にこの種のステッカーの存在に気づいて思ったのは、「わざわざこういうものを貼る必要があるんだ」ということ。なぜなら、自分はこんなステッカーが貼ってなかったとしても、ちゃんとお湯を溜めて風呂に入ることができるからだ——もっとも、昔はそうでもなかったのだが(^_^;)。

実際、ホテルのバスタブでもこの種のステッカーが貼っていないところはたくさんある。

となると、このステッカーは「ホテルに備えられたタイプの風呂に入った経験がない人、もしくはその経験が浅い人」に向けたものと推測される。かつて、西洋式の便器の脇には必ずと言っていいほど、イラスト入りの「正しい使い方」が貼られていたが、あれと同じようなものだろう。



洋式便器の使用説明書。まだありました。
洋式便器の使用説明書。まだありました。

そういう「ホテルの風呂未経験者」が犯してしまいがちな誤りの中で、本人が最も慌てふためき、ホテル側にとっては最も面倒くさい事態と言えば、まず間違いなく「バスタブからお湯を溢れさせてしまうこと」だ。

一般家庭の風呂と違って、浴槽から出て体を洗い、ざあざあとお湯をかぶることなど想定していない作りなので、やってみれば分かるが(やらない方がいいが)、溢れたお湯は溜まりっぱなしで浴室内は床上浸水状態。ひどい場合はドアの下の隙間から部屋に流れ出てしまうこともある。

おそらくA、Bとも、そのような事態の発生を防ごうという同様の趣旨、目的をもったステッカーと思われるが、それぞれに添えられた文言が異なっている。そして、その文言の違いからそれぞれのホテルの姿勢が透けて見えるようで、なかなか興味深い。

まずAの方から。


「この高さまでお湯を入れて下さい」

Please put the hot water up to this hight.

言われたとおりこの高さまでお湯を入れれば、たいていの人は快適に入浴ができるだろう。肩ぐらいまではお湯につかれるし、バスタブからお湯が溢れることもまずない。そういう意味で親切なステッカーと言えるだろう。

ただ私としては「この高さまでお湯を入れて下さい」と言われると、「必ずここまで入れなければならない」という気がして、少しだけ自由を奪われたような心持ちがしてしまう。

例えば、半身浴をするのであれば、お湯の量はこの波線よりもずっと下で十分のはずだ。そこで適度なところで止めようとすると、目の前に「この高さまでお湯を入れて下さい」の文字が……。

人から何と言われようと気にならない人は何の支障もなくお湯を止めるだろうが、私は気になるし、無視できないという気持ちになってしまう。理由は「入れて下さい」と敬語でお願いされているからだ。

ホテルは丁寧語を使って私に語りかけてくれている。それはこちらを軽んじていない証拠だし、親切心も感じられる。すると、私のように人の好意を無にできないタイプは、できるかぎり相手の意向に沿おうと努力してしまう。

自分の意思でそうしているのは間違いないのだが、この「努力してしまう」の部分が、自由を奪われたような心持ちの原因だろうと自己分析している。

ちなみに、英語の方では「up to this hight」となっているので、直訳すれば「お湯は最高でもこの高さまで」であり、意訳すると「お湯の量はこの線を越えないようにして下さい」となる。

「この線を越えないように」であれば、「線以下であればどこで止めてもOK」というお許しを得たことになるので、元の日本語表現よりも束縛感ははるかに小さくなる。

一方のBは。


適正水位

WATER LEVEL

戦時中に憲兵から「水位はここが適正なのである! 問答無用!」と頭ごなしにどやしつけられているようで、あまり気分はよろしくない。

そもそも「適正」という言葉の選び方が問題だ。ふつう風呂に入る人間はどれぐらいの湯量が正しいかとは考えないものだ。考えるとすれば、どれぐらいだと快適かということだろう。

しかるにホテル側は「この線が正しいのだ」と言っている。つまり顧客目線ではなく、ホテル側の目線からものを言っていることになる。

では、ホテル側にとってなぜこの線が適正ラインなのか。おそらく、これ以上お湯を入れると、少し前に書いたような面倒な事態が起こる確率が高くなるからではないか。そういう事態を避けたいという思いは分かるし、それはAホテルでも同じだと思われるが、言い方一つでここまで印象が違ってしまうということをBホテルの関係者はどれぐらい意識しているのだろうか?

仮にAかBのどちらに泊まるかという選択を迫られたとしたら、多少窮屈感を感じたとは言え、お客の存在をしっかりと意識した上でものを言ってくれるAホテルにするだろう。私なら。

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