奈良出張中に立ち寄ったうどん屋で見つけた注意書き(下の写真)。
各テーブルに備え付けてあったので何気なく目を通したのだが、俄には信じがたい内容に思わずうどんを噴き出しそうになった。
なぜ、このうどん屋は、わざわざこんなことをお願いしなければならないのか?
答えは簡単だ。ここに書かれた、やってほしくないことをやる客がいるからだ。
しかも、例外的にごく少数の人がやったというレベルではなく、注意書きを作って阻止しなければならないほど、こうした行動に出る人が大勢いる(いた)ということだ。
では、それは誰か?
お願いの①から⑥まで、すべて日本語、英語、中国語の三カ国語で併記されているが、①にある「おはし(この店のおはしは割りばしではない)、レンゲ等」を持ち帰る日本人など見たことがないし、仮にいたとしても、それは例外的存在で、わざわざ注意書きを作ろうと店側に決意させるほどの損害をもたらすとは考えにくい。
同じく、③飲食物を店内に持ち込む日本人や、⑥危険なまでに、むやみやたらと店内を歩き回る日本人がいないとは言わないが、やはり例外的だろう。
それに、たまにそういう日本人がいたとしても、店員さんが口頭で注意すればすむ話だ。
さらによく見ると、最上段にある赤枠で囲ったタイトル部には日本語の表記がない。
従って、この注意書きの作者がメインの読み手として想定しているのは、日本人ではないはずだ。
そうなると、注意を促したい相手は英語圏および中国語圏から来日した旅行者ということになろう。
ただ、「そんなのは偏見だ」と非難されるのを覚悟であえて申し上げると、おそらくそれは中国語圏からの旅行者の方だ。
私は中国語を解さないので感覚的なことしか言えないが、④、⑤、⑥を見ると中国語の情報量が日本語や英語よりもかなり多いように見える。
中国語の文が一番「詳しく」注意を呼びかけ、お願いをしているような印象だ。
つまり、理由などを含めて相手が納得するように書かれているように思われ、それはとりもなおさず中国語圏からの旅行者に是非ともここに書かれているような行動をやめてほしいからに違いない。
おそらくはこの注意書きができるまで、店員さんたちは「レンゲを持って帰らないで!」「危ないからうろうろしないで!」と言いたくても、中国語でどう言えばいいか見当もつかず、仕方なく日本語で注意したり、「ノー、ノー」と身振り手振りを交えながら阻止したりと、相当に苦労されたのではないだろうか。
注意書きのおかげで店の評判が上がり、いっそう繁盛するようになったとは思えないし、客の大半を占める日本人の中には「俺たちに常識がないとでも思っているのか」と不快に思う人もいるかもしれない。
それでも店をきちんと運営していくためには、無粋だと分かっていても作らざるをえなかったのだ。
こういうのを必要悪と言うのだろう。